遺伝性の乳癌について

今回は遺伝性の乳癌についてお話をします。

お母さん、おばあさん、姉妹など血縁に乳がんの方がいらっしゃる場合に”家族性乳がん”と呼びます。家族性乳がんは、乳がん全体の10~15%と言われています。家族性の乳癌の中には遺伝子の異常が有り、そのために乳癌・卵巣癌にかかりやすい家系の人がいます。これを遺伝性の乳癌と呼びます。

遺伝性の乳がんの代表は、”遺伝性乳がん・卵巣がん症候群”です。これは、BRCA1、または2という二つの遺伝子の病的変異がある乳がんです。

当院では、まだ遺伝性乳癌があまり注目されていなかった、2012年7月から常勤の遺伝カウンセラーが勤務し、遺伝性の乳癌に関する遺伝カウンセリングを行ってきました。遺伝カウンセリングを開始した翌年、2013年5月に掲載された『ニューヨーク・タイムズ』に、米国の女優のアンジェリーナジョリーさんが乳癌と卵巣癌の発生が高くなるとされる遺伝子「BRCA1」に変異があるとして、乳癌予防のために両乳腺を切除し、シリコンインプラントによる乳房再建手術を受けたことを明かしました。この手術の公表は世界的に大きなインパクトを与え、「アンジェリーナ効果」と呼ばれ、当院でも遺伝カウンセリングの希望が爆発的に増加しました。その後アンジェリーナジョリーさんは、予防的に卵管・卵巣摘除術も受けておられます。

当時遺伝子検査は自費診療で行われ、検査を希望される際には約20万円の費用が必要でした。その後遺伝性乳癌・卵巣癌症候群に対する認識が高まり、遺伝性乳癌の患者さんの数も少なからず存在することが確認されてきました。そのために2020年4月より今まで自費で遺伝子検査を行ってきたものが、一定の条件を満たせば保険診療にて検査ができるようになりました。およそ20万円の検査が3割負担だと約6万円で検査が受けられるようになりました。保険の適応の基準は以下の通りです。

  1.  45 歳以下の発症
  2.  60 歳以下のトリプルネガティブ乳がん
  3.  2 個以上の原発乳がん発症
  4.  第3 度近親者内に乳がんまたは卵巣がん発症者がいる
  5.  男性乳がん

当院でも2020年4月以降21年1月までに、上記の基準に適合する患者さんのうち76名に検査を行い、11名(14.5%)の患者さんがBRCA1、または2の変異陽性と診断されています。陽性と診断された患者さんの多くは、予防的な乳房切除や予防的卵管・卵巣摘除術をすでに受けたか、今後予定されています。乳癌は早期に発見すれば治る癌ですが、卵巣癌は早期発見が困難なので、上記の遺伝子検査で異常があれば、予防的卵管・卵巣摘除術を受けることを勧めています。遺伝性乳癌が心配な患者さんは、主治医の先生と遺伝子検査について相談してください。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医