トリプルネガティブ乳癌に対するキイトルーダの適応拡大

2022年9月26日、MSD株式会社は、抗悪性腫瘍薬/抗PD-1抗体薬であるキイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ、以下キイトルーダ)について「ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術前・術後薬物療法」として国内における適応拡大承認を取得したと発表しました。

乳がんは女性のがんの中で最も多く、好発年齢は40歳後半~60歳後半です。乳がんは、エストロゲンやプロゲステロンといったホルモン受容体、ヒト上皮成長因子受容体(HER)2、がん細胞の増殖能であるKi67という3つの要素の有無により5つのサブタイプに分かれます。そのうちの1つはホルモン受容体やHER2の過剰発現を伴わないトリプルネガティブ乳がん(TNBC)であり、TNBCの患者は40歳未満の女性に多く、乳がん全体の約10~15%を占め、一般にTNBCは他のタイプの乳がんと比較すると増殖能が高く、生存期間が短いと報告されています。

今回の承認は、国際的な臨床試験のKEYNOTE-522試験の結果に基づくものです。同試験では、ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの周術期の乳がん患者(試験に組み入れられた患者さん1174人、うち76人が日本人)を対象に、術前薬物療法として3週ごとにキイトルーダ+化学療法(パクリタキセル+カルボプラチン投与後にシクロホスファミド+ドキソルビシン/エビルビシン)を投与し、術後薬物療法として3週ごとにキイトルーダ単剤療法を実施した際の有効性と安全性を、術前薬物療法としてのプラセボ+化学療法ならびに術後薬物療法としての偽薬投与と比較検討されました。

その結果、術前薬物療法としてのキイトルーダ+化学療法と術後薬物療法としてのキイトルーダ単剤療法は、術前薬物療法としてのプラセボ+化学療法と術後薬物療法としてのプラセボと比較して無イベント生存期間(EFS)を統計学的有意に延長した(HR:0.63、95%信頼区間:0.48-0.82、P=0.00031)。

これまでキイトルーダのTNBCにおける適応は、「PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」であったが、今回の適応拡大により、再発高リスクである早期TNBCに対して、術前ならびに術後薬物療法としてキイトルーダの使用が可能となり、TNBCに対する新規の治療方法が確立され、これは乳癌治療に大きな進歩です。

最後になりますが、簡単にキイトルーダの説明を致します。

キイトルーダは免疫チェックポイント阻害薬の1つであり、免疫に関与する活性化T細胞上に発現するPD-1と結合することで、がん細胞上のPD-L1/2とPD-1が結合するのを阻害する。これによりがん細胞がT細胞の働きを抑制するのを阻害し、T細胞が再活性化されることによりがん細胞を排除することにより効果を発揮します。乳癌ではトリプルネガティブ乳癌に効果があるとされています。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医