比較的高齢の乳がん患者さんの術後放射線治療について

2023年2月に「ニューイングランドジャーナルオブメディシン」という世界的に有名な医学雑誌に、乳がん術後の放射線治療の有無による、乳房内再発の結果や、遠隔転移の有無、生存率の結果が発表されました。

乳癌で乳房温存手術を受けた際には、術後に放射線治療が必ず必要とされています。今回の研究では、65歳以上の患者さんで、ホルモンレセプターが陽性、腋窩リンパ節に転移が無く、腫瘍の大きさが3cm 未満の比較的早期で、術後の予後良好なグループの患者さんが対象です。放射線治療を通常どおりに行うグループと放射線治療を加えないでホルモン療法のみのグループとで、術後の乳房内の再発や遠隔転移の有無、10年生存率を両グループで比較検討したものです。イギリス、ギリシア、オーストリア、セルビアの76施設が研究に参加しました。患者さんの総数1,326人がこの研究に登録されました。主な研究者はスコットランドの首都に所在する、エディンバラ大学の研究者です。

放射線治療を受けたグループは658人で、放射線治療を受けなかったグループは668人でした。患者さんの平均年齢は71歳、腫瘍径が2cm以下の患者さんは全体で約88%でした。観察期間の中央値は9.1年で、10年間で放射線治療受けなかったグループは9.5%、放射線治療を受けたグループでは0.9%と、有意に放射線治療無しのグループで乳房内再発が増加していました。遠隔転移は放射線治療を受けなかったグループは1.6%に対して、放射線治療を受けたグル-プは3.0%と放射線治療を受けたグループに遠隔転移が多かったのですが、両グループ間での有意差はありませんでした。10年生存率は、放射線治療無しのグループでは80.8%、放射線治療を受けたグループでは80.7%で、両者の間で生存率に差は認めませんでした。放射線治療を省略すると、比較的高齢で乳癌再発リスクの低い患者さんでも、乳房内再発は有意に増加しましたが、遠隔転移や、生存率に差は認められなかったというのが今回の報告です。従って高齢の患者さんで、再発のリスクの低い患者さんでも、放射線治療が必要であると結論づけられています。

当院では75歳以上で腫瘍径が小さく、ホルモンレセプター陽性なら、放射線治療はなしで、ホルモン治療単独で経過観察も可能という選択肢もあると説明して診療しています。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医