最近投与可能になった術後補助療法の経口治療薬
今月は最近1年半の間に術後補助療法として使用可能になった、3種類の経口剤についてお話をします。この3種類の薬剤はCDK4/6阻害剤のベージニオ、BRCA1/2遺伝子異常の患者さんに使用するリムパーザ、そして経口の5FU系薬剤のティーエスワンです。
まずベージニオ(アベマシクリブ)は、2021年12月24日に、「ホルモン受容体陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術後薬物療法」として新たに承認されました。ベージニオはすでに、2018年9月に、「ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」の効能・効果で承認されています。今回、術後薬物療法として追加承認されたことで、ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の再発高リスクの乳がん患者さんの、新たな治療選択の1つとして期待されます。内分泌療法にCDK4/6阻害薬を追加した併用療法を、再発高リスクの術後治療として評価したmonarchE試験で、3年無病生存率は内分泌療法単独で83.4%に対して、併用群では88.8%と5.4%の上乗せ効果がありました。しかし、有害事象の増加やコストなど課題も多くあります。この薬剤は、150mg 1錠は8,616円です。1日2錠ですので1日17,232円、1か月30日として月516,960円、24か月内服するので1,240万円です。3割負担なら月155,088円の負担になります。もちろん、高額療養費制度の対象になりますが、副作用も下痢や好中球減少、肝機能障害等が有ります。また副作用のマネージメントのために頻回の通院が必要となります。効果(ベネフィット)と副作用や、治療費とのバランスを考えて投与したいと思います。
次いでリムパーザ(PARP阻害薬)についてお話をします。リムパーザについては2022年9月の当ブログで紹介していますので、その復習をします。この薬剤は今まで、乳癌では再発乳癌で、BRCA1または2(まれに両方)遺伝子変異を持つ患者さんに使用することが保険適応(健康保険を使って治療を受けられる)になっていました。しかし、2022年8月25日からは、BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳がんにおける術後薬物療法として適応拡大がされることになりました。第Ⅲ相OlympiA試験で、リムパーザが、局所治療および、標準的な術前または術後化学療法を完了したBRCA遺伝子変異陽性、かつHer-2陰性の高リスク早期乳がん患者さんの術後薬物療法において、偽薬と比較し、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある全生存期間の延長を示しました。本試験では全生存期間で、リムパーザは偽薬と比較し、死亡リスクを32%低下させました。また、3年生存率は偽薬投与群では89.1%であったのに対し、リムパーザ投与群では92.8%でした。さらに、4年生存率は偽薬投与群では86.4%であったのに対し、リムパーザ投与群では89.8%でした。
最後にティーエスワンについてお話をします。ティーエスワンについても当ブログの2022年12月にお話をしています。上記の2種類の経口薬と同様に、今までは乳癌に対しては、手術不能か再発乳癌の患者さんにしか使用できない薬剤でしたが、2022年11月24日に新たに、エストロゲン受容体陽性HER2陰性乳癌に対する術後補助療法において、内分泌療法にティーエスワンを併用する事が可能になりました。この治療の承認されたきっかけになった臨床試験が、POTENT (PostOperative Therapy with ENdocrine and TS-1)試験です。実際の試験は、エストロゲン受容体陽性HER2陰性乳がんに対する術後補助療法において、標準的な治療法である内分泌療法(5年間)を対照群とし、この内分泌療法(5年間)とティーエスワン(1年間)を併用する治療法を試験群として、再発抑制効果が高まることを無作為化比較第Ⅲ相試験により検証することを目的としていました。標準的術後補助内分泌療法にS-1を併用することにより浸潤性病変の発生リスクが37%低減されました(ハザード比0.63、95% CI 0.49~0.81、p=0.0003)。S-1と内分泌療法の併用は、中等度~高度の再発リスクを有するER陽性かつHER2陰性の原発乳癌患者における有力な治療法になると考えられます。