乳癌再発高リスク群に対するベージニオの長期成績

今年もあと10日も切って年の瀬も迫ってきました。

今月の院長ブログは、2023年10月20日から24日にスペイン、マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表された、乳癌に関する演題の中からベージニオ(CDK4/6阻害剤)を使った再発高リスクの、ホルモン受容体陽性・Her-2陰性の乳癌患者さんの術後補助療法における長期成績が発表されたのでこれを紹介します。

この試験はmonarchE試験と呼ばれる試験で、この結果から術後補助療法にベージニオが追加使用できるようになった重要な臨床試験です。今回のESMOでの長期追跡(中央値54カ月)後の結果が、ドイツの研究者のNadia Harbeck先生から発表されました。この試験は約5600人の患者さんに手術、放射線治療、化学療法等が終了した患者さんを2群に分けた試験です。対照群は通常のホルモン療法(5年以上)を投与した群で、試験群はホルモン療法(5年以上)にベージニオ(2年間)を加えた群です。対象の患者さんはホルモンレセプター陽性でHer-2陰性の再発高リスクの患者さんです。具体的には 腋窩リンパ節転移が4個以上の患者さんや、腋窩リンパ節転移が1-3個の場合には、腫瘍の大きさが5cm以上か組織グレードが3の患者さんです。

今回5年解析結果が発表され、遠隔転移の起こった患者さんの数は ベージニオ+ホルモン療法群で345例、ホルモン療法群で501例と遠隔再発がベージニオ+ホルモン療法群で32.5%有意に減少していました。(p<0.001)  遠隔転移率の差も3年時で4.1%、4年時で5.3%、5年時で6.7%と、ベージニオの服用期間の2年を過ぎても効果が持続している事が証明されています(キャリーオーバー効果があるとされています)。死亡数はベージニオ+ホルモン療法群で208例、ホルモン療法単独群で234例とハザード比は0.903とベージニオ+ホルモン療法群で良好でしたが、有意差は認められませんでした。有意差が出るにはもう少し長期のフォローアップが必要と考えられます。長期の安全性プロファイルも良好であり、内分泌療法とCDK阻害剤の併用を支持するデータとなっています。

これらの結果から再発リスクの高いホルモンレセプター陽性、Her-2陰性の乳癌においては、術後補助療法で5年以上のホルモン療法に2年間のベージニオを投与することは有効な治療法であり、再発リスクを軽減できることが明らかになりました。生存率の向上には、より長期のフォローアップが必要と考えられます。

本年も私の院長ブログを読んでいただき、ありがとうございました。

それでは皆さん良いお年をお迎えください。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医