トリプルネガティブ乳癌に対する新規治療薬 サシツズマブ ゴビテカン(Sacituzumab govitecan)について
ギリアド・サイエンシズ株式会社(以下「ギリアド」)は、全身療法歴のある手術不能または再発のホルモン受容体陰性かつHER2陰性(HR-/HER2-)(トリプルネガティブ)乳癌治療薬として開発を進めている抗体薬物複合体”サシツズマブ ゴビテカン”について2024年1月30日、日本での製造販売承認申請を行いました。このことから、順調に厚生労働省で審査が進めば、欧米に続いて日本でもトリプルネガティブ乳癌に対してこの薬剤が使用できるようになります。米国では2021年4月、ヨーロッパでは2021年11月に承認されています。欧米で新規の薬剤が承認されていても、日本では未だ承認されていないことの現象は「ドラッグラグ」と呼ばれていて、社会的な問題になっています。
サシツズマブ ゴビテカンは今まで日本でも使用できる薬剤である、カドサイラやエンハーツと同様の抗体薬物複合体と呼ばれる薬剤です。カドサイラやエンハーツはHer-2陽性のHer-2タンパクに対する抗体に化学療法剤をくっつけた薬剤ですが、サシツズマブ ゴビテカンは、90%以上の乳がんを含む複数の癌種で高発現する、細胞表面抗原であるTrop-2たんぱくを標的とする抗体薬物複合体(ADC)です。サシツズマブ ゴビテカンはヒト化抗Trop-2モノクローナル抗体に、イリノテカンの活性代謝物であるSN-38(トポイソメラーゼ阻害剤)を結合させた抗体薬物複合体です。一つの抗体には、平均7.6分子のSN-38が結合しています。SN-38は直接投与するには毒性が強すぎるのですが、抗体と結合させることで、Trop-2を発現している細胞を特異的に攻撃できるようになります。Trop-2が発現した癌細胞に取り込まれると、トポイソメラーゼI阻害剤であるSN-38を直接届けるとともに、バイスタンダー効果により周辺のがん細胞のDNAにも作用し、がん細胞を死滅させます。
今回の承認申請は、2つ以上の化学療法による治療後に再発した、切除不能な局所進行または転移・再発のHR-/HER2-乳がん患者を対象に海外で実施した第III相試験(ASCENT試験)および国内第II相臨床試験(ASCENT-J02試験)の結果に基づくものです。
一般的な副作用は、吐き気、好中球減少症、下痢、疲労、貧血、嘔吐、脱毛症、便秘、食欲不振、発疹、腹痛です。特に注意が必要な副作用では重度の好中球減少と下痢のリスクです。トリプルネガティブ乳癌の再発で苦しんでいる日本の患者さんが、一日でも早くこの薬剤が使用できることを望んでいます。