新規乳癌治療薬 ターゼナについて

2024年2月に発行された「名医のいる病院2024」の雑誌で乳癌手術件数のランキングが出ました。これは、2022年の乳癌手術数に関して 日本全国の専門施設にアンケート調査を行った結果です。当院の手術数は778例で、がん研有明病院に次いで 日本全国で第2位にランキングされました。当院にとっては、非常に名誉なことだと考えております。2005年9月に開業して以来、手術数は増加し、2011年より大阪府下で第1位となってます。以後、大阪府下での第1位を続けており、2021年には日本全国で第4位になりました。今回2022年度の手術数が全国第2位となったことは、当院の職員にとっても非常に誇らしい事だと思っています。

話は変わりまして、今月の院長ブログは、新規乳癌治療薬のターゼナについてお話をします。この薬剤はPARP(パープ)阻害剤と呼ばれる薬剤の一種です。以前に、同様の作用を持つリムパーザという薬剤のことを院長ブログに書きました(2022年9月の院長ブログを参照してください。

ターゼナは、 BRCA1、BRCA2の遺伝子異常を持つHer-2陰性患者さんの、進行再発乳癌の時に使う薬剤です。DNA修復で重要な役割を果たしているPARP1およびPARP2の強力な阻害薬で、PARP触媒活性の阻害とPARPトラッピングという2つの機序によって、相同組換え修復または他のDNA修復経路に関与する遺伝子に変異、または欠損がある腫瘍細胞で合成致死を誘導します。ターゼナは、相同組換え修復遺伝子の1つであるBRCA遺伝子変異を有するHER2陰性の局所進行、または転移乳癌患者の治療を適応として、米国を含む70以上の国や地域において承認されています。BRCA遺伝子変異陽性で、かつHer-2陰性の手術不能、または再発乳癌患者431例に対して、ターゼナ群と通常の化学療法の群とで比較試験が行われました。その結果、無増悪生存期間(薬剤が有効な期間)が化学療法群の中央値が5.6ヶ月に対して、ターゼナ群は8.6ヶ月とハザード比が0.54で、ターゼナ群で有意に良好な結果でした。この試験の結果から、2024年1月にターゼナが日本でも承認されました。ターゼナの投与方法は1回経口摂取することです。

副作用としては、骨髄抑制(貧血、好中球減少、血小板減少、白血球減少、リンパ球減少)、間質性肺疾患、血栓塞栓症などがあります。また、その他の副作用として食欲減退、悪心、脱毛症、疲労・無力症が報告されています。ターゼナの適応としてがん化学療法の治療歴が必要です。リムパーザは、アントラサイクリン系とタキサン系の両方の薬剤の治療歴が必要でしたが、それに対してターゼナはどちらか一方でも治療歴があれば使用できるので、使用のハードルが少し低くなっています。リムパーザは、リンパ転移陽性など再発リスクが高い BRCA 遺伝子変異を持つ患者さんに対して術後補助療法(再発予防の治療)として使えますが、ターゼナは術後補助療法に対する適用はありません。乳癌治療の選択肢が増えることは、乳癌治療医に取っては新たな武器を手に入れることで、喜ばしいことと思っています。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医