Her-2超低発現でもエンハーツが有効

アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)の2024年の年次総会が、シカゴのマコーミックプレイスの巨大な学会場で、2024年5月31日から6月4日まで開催されました。私も新型コロナウイルス感染症が発生する前は、ほぼ毎年、約20年間は参加していましたが、2020年以降はコロナウイルスの影響で参加できていません。本年の参加人数は約4万5千人で、小さな市の人口に匹敵する人数でした。

今年のASCOの乳癌関連の一番のトピックスは、以前にも院長ブログでお話しをした エンハーツ に関する演題です。エンハーツに関しては、2022年11月2023年3月のブログで詳しく書いています。エンハーツは今までHer-2陽性の再発乳癌、次いでHer-2低発現のホルモンレセプター陽性の乳癌に対して、有効性が認められ使用が認可されています。今回の発表は、HR+かつHER2-低発現、およびHER2-超低発現で化学療法未治療の転移・再発乳がん患者を対象とした、第III相DESTINY-Breast06試験の結果についてです。イタリアのミラノ大学のCurigliano先生の発表で、対象は転移に対する2種類以上の内分泌療法±分子標的薬を受けた患者さん、術後内分泌療法で24カ月以内に増悪したか1種類の内分泌療法+CDK4/6阻害薬投与で6カ月以内に病勢進行した患者さんでした。

866人(HER2低発現患者713人、HER2超低発現患者153人)がエンハーツ群に436人、医師選択化学療法に430人と無作為に1:1に割り付けられました。全体の中でCDK4/6阻害薬の投与歴があったのは、90.4%でした。医師選択化学療法群で投与されたのは、カペシタビンが59.8%、ナブパクリタキセルが24.4%、パクリタキセルが15.8%でした。

 

HER2低発現集団:713例

・主要評価項目であるHER2低発現における無増悪生存期間の中央値は、エンハーツ群13.2ヵ月、医師選択化学療法群8.1ヵ月であり、エンハーツ群で統計学的に有意に改善を認めました(ハザード比:0.62、95%CI:0.51~0.74、p<0.0001)。

・12ヵ月生存率は、エンハーツ群87.6%、医師選択化学療法群81.7%でした。

・有効率は、エンハーツ群56.5%(完全寛解が2.5%)、医師選択化学療法群32.2%(0%)でした。臨床的有益率はそれぞれ76.6%、53.7%で、エンハーツ群で有効率は高かったです。

 

HER2超弟発現集団:152例

・HER2超低発現集団における無増悪生存期間の中央値は、エンハーツ群13.2ヵ月、医師選択化学療法群8.3ヵ月でした(ハザード比:0.78、95%CI:0.50~1.21)。

・12ヵ月生存率は、エンハーツ群84.0%、TPC群78.7%で、有効率は、エンハーツ群61.8%(完全寛解が5.3%)、医師選択化学療法群は26.3%(完全寛解0%)でした。臨床的有益率はそれぞれ76.3%、43.4%でした。このことから、今までHer-2陰性として扱われていたHer-2超低発現の患者さんにも、エンハーツが有効であることが示されました。

これらの結果より、Curigliano先生は「本試験によって、エンハーツは、1種類以上の内分泌療法を受けたホルモンレセプター陽性かつ、HER2低発現およびHER2超低発現の転移・再発乳がん患者の新たな治療選択肢となった」とまとめました。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医