アメリカでの乳がん死亡率低下の要因

9月も半ばを過ぎても、まだまだ暑い日が続きます。30℃越えは当たり前で、驚く減少ではなくなりました。9月22日の秋分の日を過ぎてようやく少し涼しくなりました。

今月は アメリカで近年乳がん死亡率が低下している原因についての研究です。1975年から2019年にかけて、アメリカにおける乳がん死亡率は大幅に低下しましたが、この背景には、早期発見や治療の進展がどのように貢献したのかが重要な命題となっています。米国スタンフォード大学のCaswell-Jin先生らは、乳がん死亡率の低下において、ステージIからIIIの乳がん治療、転移性乳がん治療、そしてマンモグラフィーによる乳がん検診のそれぞれがどれほどの影響を与えたのかを、モデルを用いて分析し、その結果をJAMA(The journal of the American Medical Association)と言う一流雑誌に2024年1月に発表しました。

研究の目的と方法

この研究では、Cancer Intervention and Surveillance Modeling Network(CISNET) の4つのモデルを使用し、観察データや臨床試験データに基づいて、アメリカ国内の30歳から79歳の女性の乳がん死亡率を再現しました。特に、エストロゲン受容体(ER)やHer-2といったサブタイプごとに、1975年から2019年までの乳がん死亡率の推移がシミュレーションされています。

研究チームは、乳がん死亡率に対するマンモグラフィーによる検診、ステージIからIIIの乳がん治療、および転移性乳がん治療効果をモデルで評価し、それらが死亡率低下にどの程度寄与したかを算出しました。

研究結果

まず、乳がん死亡率は1975年の10万人あたり48人から2019年には27人まで大幅に減少しており、この間に58%もの死亡率低下が確認されました。さらに、これに寄与した要因を3つに分けて分析したところ、次のような結果がわかりました。

ステージIからIIIの乳がん治療が47%の減少に貢献していました。次いで転移性乳がん治療は、乳がん死亡率の29%の低下に寄与していました。さらにマンモグラフィーによる乳がん検診は、死亡率の25%の低下に関連していました。

つまり、死亡率低下に最も大きな影響を与えたのは、ステージIからIIIの乳がん治療であり、その次に転移性乳がん治療が続き、スクリーニングは比較的少ないものの重要な役割を果たしていることがわかりました。

転移性乳がんの治療効果

特に注目すべきは、転移性乳がんに対する治療の進展です。2000年から2019年の間に、転移性乳がん再発後の生存期間が大きく改善されました。2000年には転移性乳がん再発後の中央値生存期間は1.9年(モデル範囲1.0~2.7年)でしたが、2019年にはこれが3.2年(モデル範囲2.0~4.9年)にまで延びています。特に、ER陽性/Her-2陽性の乳がんでは、中央値生存期間が2.5年(モデル範囲2.0~3.4年)延長した一方で、ER陰性/Her-2陰性(トリプルネガティブ)の乳がんでは延び幅が0.5年(モデル範囲0.3~0.8年)にとどまりました。これらの結果から、乳がんのサブタイプによる生存期間の差異も明らかになりました。ER陽性/Her-2陽性の患者では、より大きな治療効果が得られている一方で、ER陰性/ERBB2陰性の患者には依然として改善の余地があることが示唆されています。

結論としてこの研究は、1975年から2019年にかけての乳がん死亡率の劇的な低下が、主にステージIからIIIの治療と転移性乳がん治療の進展に支えられていることを示しています。これに加え、マンモグラフィーによる乳がん検診も重要な役割を果たしており、早期発見が乳がん治療の成功率を高めることが確認されています。

特に近年では、転移性乳がんに対する治療の進展が顕著であり、生存期間の延長に大きく寄与していることがわかりました。とはいえ、乳がんのサブタイプごとに生存率の改善効果に違いがあることから、今後の治療開発においては、ER陰性/Her-2陰性の乳がんに対する新たな治療法の開発が急務であると考えられます。

この研究は、乳がん治療やスクリーニングの進展が患者の生存率向上にどれほど寄与しているのかを数値で示し、今後の乳がん対策における指針を提供する重要なものだと考えられます。

大阪ブレストクリニック 院長 芝 英一 【認定資格】 大阪大学医学博士 日本外科学会認定医、専門医、指導医 日本乳癌学会専門医・指導医 NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構認定読影医 日本内分泌・甲状腺外科専門医