乳癌治療の進歩により乳癌手術後の予後が改善
英国 オックスフォード大学の研究グループが、2024年10月にイギリスの有名な医学雑誌ランセットに「早期乳癌の再発リスク低減:1990年から2009年の臨床試験データ分析」というタイトルで発表しています。
近年、乳癌治療の進歩により、再発リスクが大幅に低減されていることが分かっています。このテーマについて、Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)は、1990年から2009年の間に臨床試験に参加した155,746人の女性のデータを用いて、早期乳癌における遠隔再発(遠隔転移)のリスクを分析しました。今回のブログでは、その研究結果と重要なポイントをご紹介します。
研究の背景
乳癌は大きく分けてエストロゲン受容体陽性(ER陽性)と陰性(ER陰性)に分類されます。ER陽性乳癌では、診断後20年以上にわたって遠隔再発のリスクが続くことが知られていますが、ER陰性乳癌では長期的なデータが限られていました。本研究では、これら2つのタイプについて、遠隔再発リスクの推移と治療成果の違いを調べることを目的としました。
対象者は以下の条件を満たした女性患者さんです:1990~2009年に臨床試験へ登録した75歳未満で早期乳癌と診断。腫瘍サイズが50mm以下、遠隔転移のない状態。
ER陽性の場合、少なくとも5年間の内分泌療法を予定。
ER陰性の場合、治療法が明確であること。
一方で、前治療が不明な症例や、結果や基礎データが不完全なケースは除外されました。
研究結果
再発リスクの改善
10年以内の遠隔再発リスクは、1990年代に比べて2000年代に大幅に低下しました。
リンパ節陰性の症例
ER陽性:10.1% → 7.3%
ER陰性:18.3% → 11.9%
リンパ節1~3個陽性の症例
ER陽性:19.9% → 14.7%
ER陰性:31.9% → 22.1%
リンパ節4~9個陽性の症例
ER陽性:39.6% → 28.5%
ER陰性:47.8% → 36.5%
再発リスク低減の80~90%は、以下によるものとされています:
腫瘍径が小さい等の低リスク患者の試験登録増加。
補助療法(術後治療)の向上。例:内分泌療法、化学療法、放射線療法など。
しかし、これらを考慮しても、再発リスクは2000年代で1990年代よりER陽性で25%減少、ER陰性で19%減少しました。
長期リスク
特にリンパ節陽性の患者では、治療後10年以上経過しても再発リスクが残るため、継続的なフォローアップが必要とされています。
結論と解釈
本研究は、治療の進歩とリスクの低い患者さんが多く臨床試験に登録されたことが再発リスク低減に大きく寄与していることを示しました。一方で、調整後も再発リスクの低下が観察されており、治療法の進化が奏功していることが明らかです。
現在でも、遠隔再発リスクは特にリンパ節陽性の患者で残存するため、個々のリスクに応じた治療戦略が必要です。診断から10年以上経過してもフォローアップを続ける重要性が強調されています。
早期乳癌は治療法の選択肢が多岐にわたり、適切な治療と管理によって長期的な生存率が大きく向上します。この研究結果が、さらなる治療開発と患者支援の一助となることを期待しています。