第一三共ダトロウェイの承認
第一三共株式会社から発売されるダトロウェイは、2024年12月27日に世界で第1番目に新規の乳癌治療薬として承認されました。点滴の注射薬のダトロウェイ(一般名 : ダトポタマブ デルクステカンで、抗TROP-2抗体薬物複合体(ADC)です。適応は「化学療法歴のあるホルモン受容体(以下「HR」)陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」を適応として、日本で製造販売承認を取得しました。米国ではFDAが2025年1月17日に承認しています。いつも日本が世界に遅れて新薬が承認されるドラッグラグと呼ばれる現象がありますが、日本発の薬剤なのでダトロウェイが世界で最初に承認されたことは意義深いことだと思います。ダトロウェイは、化学療法による前治療歴のあるHR陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん患者を対象とした第3相臨床試験(TROPION-Breast01)の結果に基づき承認されました。
ダトロウェイは、がん細胞表面に高発現するタンパク質であるTROP2を標的とした抗体薬物複合体(ADC)です。この薬剤は、TROP2に特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体に、抗がん剤であるトポイソメラーゼⅠ阻害剤(DXd)を結合させた構造を持ちます。これにより、がん細胞に直接抗がん剤を届け、正常細胞への影響を最小限に抑えつつ、効果的にがん細胞を攻撃することが可能となります。同じく第一三共が開発した「エンハーツ」は、HER2を標的としたADCです。エンハーツは、HER2陽性の乳がん患者に対して高い効果を示していますが、HER2陰性の患者には効果が限定的でした。一方、ダトロウェイはTROP2を標的としているため、HER2陰性の乳がん患者にも効果が期待できる点が大きな違いです。
ダトロウェイの有効性と安全性は、第3相臨床試験であるTROPION-Breast01試験で評価されました。この試験では、化学療法歴のあるホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん患者を対象に、ダトロウェイと標準的な化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビンのいずれか)を比較しました。結果、無増悪生存期間(PFS)において標準的治療群では4.9か月であったのに対して、ダトロウェイ群では6.9か月HR=0.63(95%CI:0.52~0.76)とダトロウェイ群が有意な改善を示し、疾患の進行を遅らせる効果が確認されました。ただし、全生存期間(OS)に関しては有意差が認められませんでした。 30%以上に認められる副作用として、口内炎(55.6%)、悪心(51.1%)、脱毛症(36.4%)、疲労(37.8%)などが報告されています。重大な副作用はエンハーツと同様に間質性肺炎があります(3.3%)。その他特徴的な副作用として角膜障害(14.4%)、口腔粘膜の障害があります。
同様のTROP2を標的としたADCとして、ギリアド・サイエンシズの「トロデルビ」があります(2024年10月の院長ブログに書いています)。トロデルビは、進行性トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対して承認されており、ダトロウェイとは適応症が異なります。トロデルビは、TROP2に結合する抗体にSN-38という抗がん剤を結合させた構造を持ち、ダトロウェイとは結合している抗がん剤の種類が異なる点も特徴です。
今後の展望として、ダトロウェイの適応拡大や他の治療法との併用療法の研究が期待されています。また、第一三共はエンハーツやダトロウェイに続く新たなADCの開発にも注力しており、乳がん治療のさらなる進歩が期待されます。
ダトロウェイの登場は、特にHER2陰性の乳がん患者にとって新たな希望となる治療法であり、今後の研究と臨床応用の進展が注目されます。