Her-2陽性転移性乳がんの治療薬ツカチニブについて
今月は日本でもうすぐ使用できるようになる薬剤ツカチニブについてお話をします。
HER2陽性の転移性乳がんは、進行が早く、治療が難しいケースも少なくありません。しかし、医療の進歩により、Her-2陽性乳がんに対する新たな治療薬が次々と登場しています。その中でも、最近注目されているのがファイザー社製の「ツカチニブ(Tucatinib)」というお薬です。
ツカチニブは、アメリカでは2020年4月にFDA(米国食品医薬品局)の承認を受け、すでに治療に使用されています。そして、日本でも2025年3月13日に承認申請が行われ、近々販売許可が下りる見込みです。この記事では、ツカチニブがどのような薬なのか、どのような患者さんに適しているのかを分かりやすくご紹介します。
ツカチニブとは?
ツカチニブは、HER2陽性の転移性乳がんのために開発された分子標的薬です。HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)は、細胞の成長を促すタンパク質の一つで、HER2が過剰に発現している乳がんは、がん細胞が増殖しやすくなります。そのため、HER2をターゲットとする治療(抗Her-2療法)がとても重要になります。
ツカチニブは、HER2をピンポイントで阻害する「チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)」という種類の薬です。他のHER2標的薬と組み合わせることで、より高い治療効果が期待されています。
ツカチニブの効果
ツカチニブは、これまでのHER2陽性転移性乳がんの治療薬と組み合わせることで、病状の進行を抑え、生存期間を延ばすことが分かっています。
特に、脳に転移した乳がん患者さんに対しても有効であることが、臨床試験で確認されています。これは、ツカチニブが血液脳関門を通過しやすく、脳転移病変にも効果を発揮するためです。これまで脳転移がある患者さんは治療の選択肢が限られていましたが、ツカチニブの登場により、新たな希望が生まれています。
代表的な臨床試験であるHER2CLIMB試験では、ツカチニブを含む治療を受けた患者さんは、従来の治療のみを受けた患者さんと比較して病状が進行するまでの期間が長くなり、全生存期間も延長したという結果が出ています。
ツカチニブの使い方
ツカチニブは、通常カペシタビン(抗がん剤)とトラスツズマブ(ハーセプチHER2抗体薬)と併用して使われます。この3剤併用療法により、HER2陽性の転移性乳がんに対して強力に作用します。
服用方法は1日2回の内服薬です。病院での点滴治療とは異なり、自宅で服用できるため、通院の負担を減らせるメリットもあります。
ツカチニブの副作用
ツカチニブにはいくつかの副作用がありますが、比較的コントロールしやすいものが多いとされています。主な副作用としては以下のようなものがあります。
下痢(最も多い副作用で、対策として整腸剤を併用することもあります)
手足症候群(カペシタビンの影響で手足に発疹やひび割れが起こることがあります)
肝機能障害(定期的な血液検査が必要です)
疲労感
副作用が現れた場合は、医師と相談しながら適切に対処することが大切です。
日本での承認状況と今後の展望
ツカチニブは、2025年3月13日に日本で承認申請が行われました。近々、厚生労働省から販売許可が下りる見込みです。販売が開始されれば、日本のHER2陽性転移性乳がんの治療選択肢がさらに広がります。
現在の標準治療に加え、ツカチニブを使用できるようになることで、特に脳転移がある患者さんにとって新たな治療の希望となるでしょう。
まとめ
ツカチニブは、HER2陽性転移性乳がんの新しい治療薬として、大きな期待が寄せられています。特に、脳転移を伴う患者さんにとって有効な選択肢となることが注目されています。
💡 ツカチニブのポイント
✅ HER2を標的とするチロシンキナーゼ阻害薬
✅ カペシタビン+トラスツズマブとの併用で効果を発揮
✅ 脳転移のある患者さんにも有効
✅ 1日2回の内服薬で自宅での治療が可能
✅ 2025年、日本での販売が見込まれている